top of page
ブログ: Blog2
  • 紅月煌

プロローグ

 悲鳴が聞こえる。つんざくような、人々の叫び声だ。


 舞い上がる黒煙、倒壊した建物。地面は瓦礫で溢れかえり、思うように歩けない。


 ほんの数分前、東京の中心部で爆発が起きた。一瞬にして炎が巻き上がり、爆風が人々を飲み込んだ。


 爆発の影響で怪我を負った者、瓦礫に埋もれ助けを呼ぶ者、死んで動かなくなった者。


 突然の出来事に人々は、恐怖と悲しみが入り混じった顔で「自分の身に何が起きたのか」を受け止め叫び声を上げている。


 そんな状況下、力なく地面に倒れこんでいた赤髪の男は、微かな声で名前を呼んだ。


「きよ、ひ…さ……」


 男の名は成瀬響。頭部から血を流し目に涙を溜めて、うわ言のように名前を呼んでいる。


「ひ、びき……」


 彼の目前にはもう一人、男が倒れていた。赤髪の男に視線を向けて、名前を呼んでいる。爆発の影響で意識が朦朧とする中、赤髪の男へ必死に手を伸ばしている。


 二人の距離はそう遠くはない。しかし触れることができずにいた。手を伸ばすたびに身体中に激痛が走り、これ以上動くことができない状態だ。


 次第に意識が遠くなる中、誰も救うことができない自分の無力さに――男は、一筋の涙を流した。


【 プロローグ End 】


【 第一話 相棒 】

閲覧数:2回0件のコメント

最新記事

すべて表示

第一話 相棒

言葉にならない苦痛が全身を駆けめぐり、海藤清弥は唐突に目を覚ました。 煙草の臭いと男の汗が混じった空気が鼻をつんざく。 顔を歪ませ数回瞬きをして、次第に意識がはっきりとした頃、人の気配を感じ左側に視線を向けると、爽やかな低音声が滑るように聞こえてきた。...

Comments


bottom of page